疫学的視点と経済的視点をもつマッキンゼーのレポート
コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、4月3日発表の「COVID-19:ビジネスへの意味合い(Implications for business)」と題するレポートで、新型コロナが世界規模で常態化する時代の「喫緊の課題」として「人命を守る」「生活を守る」の2項目を挙げ(下記)、その解決のための方向性や「Next Normal」へ向けた対策・計画について詳述しています。
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●この時代に何が求められるか ~喫緊の課題
1 人命を守る
・可能な限り早期にウイルスを抑制
・治療や検査能力の拡大
・「治癒」の追求、治療法、医薬品、ワクチン
2 生活を守る
・ロックダウンの影響を受けた人々と事業の支援
・ウイルスが沈静化した後に安全に仕事を再開するための準備
・-8%から-13%の谷からの回復の本格化へ向けた準備
資料:マッキンゼー・アンド・カンパニー「COVID-19:ブリーフィング・ノート」2020年4月3日
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◎マッキンゼー・アンド・カンパニー「COVID-19:ブリーフィング・ノート」へのリンクはこちら
このレポートは、疫学的視点と経済的視点の両方から複眼的に課題解決の方途を提示する、非常に読み応えのある内容ですが、その中で、在宅勤務者の仕事への関与と生産性を最大化するための「レバー」(てこ)について触れているパートがあります。
それによると、パンデミックのさ中に在宅勤務する従業員は、
・仕事と生活の境界線が薄れる
・エピデミック(感染流行)の進行に伴う不安の拡大
・現在のワークフローではテレワークは不適切
という、主として3つの要因によって仕事に対する士気のレベルを低下させた、という調査研究があるそうです。そして、士気を下げた従業員に対して企業が4つの「レバー」を用いたところ、士気のレベルは向上し事態は改善へ向かったという例を紹介しています。
その4つのレバーとは、「人材」「体制」「プロセス」「テクノロジー」で、それぞれ下記のような施策を展開したとのことです。
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◎対人
・心理的な安心感の提供(意思決定権の以上、共感を手本で示すなど)
・実用的な在宅勤務のヒントのコミュニケーション(家族とのコミュニケーション、身体的また心理的なニーズの管理など)
◎体制
・明確な目的と重要成果(OKR)によって効果的に目的と成果を設定してコミュニケーション
・事業部門横断での協力によって意思決定の裁量権を拡大
◎プロセス
・明確な習慣の確立(事前設定された毎日、毎週の会議、頻繁なチェックインなど)
・明確な統合的なワークフローを定義し、戦略的目的を調整して役割と責任を明確化
◎テクノロジー
・特定の仕事のニーズに対応するため一連のデジタルツールや新たなメディアを活用
・生産性を確保するため人間工学的に効果的な、デジタル対応のリモートワーク環境を構築
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日本政府は4月22日に「IT新戦略策定へ向けた方針について」発表
新型コロナがもたらす危機を乗り越える手段として、テクノロジーの活用がさまざまなところで叫ばれています。
たとえば政府は4月22日に、「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に、あらゆるテクノロジーを駆使し対峙していく」(安部晋三総理大臣)との方針の下、「IT新戦略策定へ向けた方針について」を発表しています。
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IT新戦略の策定に向けた基本的考え方(全体像)
・新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するための喫緊の方策として、治療薬やワクチンの開発・普及、雇用・家計・事業を守るための取り組みとともに、接触機会の最低7割、極力8割程度の削減等のため、ITやデータを総動員した取り組みが必要。
・また、戦後最大の危機とも言われる今般の感染拡大は、社会的距離を確保しながら、仕事、学び、くらしを継続可能としなければならないなど、社会の在り方に根源的な変革を迫っている。
・感染拡大抑制の後には、我が国経済を再起動するため、ピンチをチャンスに変え、デジタル化を社会変革の原動力とするデジタル強靭化を強力に推進する。
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◎政府「IT新戦略策定へ向けた方針について」へのリンクはこちら
そしてこの中の「デジタル強靭化」の一環として、「テレワークの一層の活用を促進」という施策を打ち出しています(「デジタル強靭化」の対象としてはほかに、オンライン教育、くらし改革、社会基盤の整備、があります)。
この「テレワークの一層の活用」へ向けて官民を挙げて取り組むとしたことは、仕組み(システム)の普及が促進されるというインパクトにとどまらず、働き方や事業モデルそのものにも大きな影響を与えるだろうと想像されます。
そしてその時に、従業員が在宅勤務において仕事への士気を高め生産性を最大化できるのは、テクノロジーだけでなく、人材、体制、プロセス面からのバックアップや施策も必要、というマッキンゼーの指摘は、きわめて重い意味をもつと思われます。
「新型コロナの下ではDX推進が迫られる」と日本総研
新型コロナの下でのテクノロジーの活用については、日本総研がDX推進の観点から必要性をレポートしています(5月1日発表の「新型コロナ禍が促す企業のデジタルトランスフォーメーション」)。その中で、次のような指摘をしています。
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第1に、社会全体のデジタル化の加速である。新型コロナの流行とそれに対処するための外出制限措置は、「非対面」と「無人化」のニーズを惹起した。
それは主に、①個人の行動がオフラインからオンラインへシフト、②人間が行っていた作業を機械やロボットが代替、という、デジタル技術を活用した2つの動きを加速させる形で顕在化している。
そのなかで、デジタルのメリットを最大限引き出せるか否かが危機における生き残りとその後の競争優位を築く鍵を握り、そのためにDXが必要となる。
第2に、価値観・生活様相の変化である。パンデミック、戦争、経済混乱などの災禍はしばしば、人々の価値観や生活を大きく変えたり、それ以前に芽生えていた意識の変化を顕在化させたりして、社会・経済全体の流れを変えていく。
新型コロナの規模と広がりを踏まえると、今回もそれが生じる可能性が高い。ところが、どのような変化がいつ、どの程度、どのようなスピードで生じるかを事前に知ることは難しい。
そこで企業は、ユーザーの行動をリアルタイムできめ細かく観察し、変化をいち早く察知して対応する必要があり、そのためにはデジタル技術のフル活用が不可欠であり、この面からもDXを迫られることになる。
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そして、「①個人の行動がオフラインからオンラインへシフト」と「②人間が行っていた作業を機械やロボットが代替」の代表例として、次を挙げています。
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①個人の行動がオフラインからオンラインへシフト
・買い物:Eコマース、オンライン配送
・仕事:テレワーク
・学習:オンライン学習
・余暇:オンライン・ゲーム、eスポーツ、オンライン飲み会
・医療受診:オンライン診療
②人間が行っていた作業を機械やロボットが代替
・医療現場での感染対策・人手不足対策:ロボット、ドローン
・市街での感染対策:自動運転車、ドローン
・治療薬開発:創薬AI
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◎日本総研の「新型コロナ禍が促す企業のデジタルトランスフォーメーション」へのリンクはこちら
次回は、この②をもう少し掘り下げて考えてみます。②とはすなわち、自動化、オートメーション、RPAへとつながっていく事柄だろうと思います。(2020.5.8)
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◎シリーズ|新型コロナとRPA◎CONTETS
シリーズ|新型コロナとRPA(1)~RPAはどのような認識の下に活用すべき?
シリーズ|新型コロナとRPA(2)~RPAをめぐる経済環境の激変
シリーズ|新型コロナとRPA(3)~ソーシャルディスタンスについて考える