「新型コロナを機に、一気に止めること、一気にやり方を変えることが出てくる」( 豊田章男社長)
5月12日に行われたトヨタ自動車の決算発表で、社長の豊田章男氏は、記者からの「100年に1度という自動車産業の大変革の中で、今回の新型コロナはトヨタのあり方にどのような影響を与え、どう変えていくと考えているか」という質問を受けて、次のように回答しています。
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非常事態宣言が発令されたのを受けて、私自身が県外への移動を避けるために、愛知県の当社の研修センターにずっと身を置いて仕事をしてきましたが、それでわかったことは、移動時間が80%削減、人との接触時間が85%減、会議時間が30%減、会議資料が50%減、ということでした。
今までだと、社内の人たちが私と会うとなると、資料を作り、役職が上の人だと誰かに書かせていたので、最初に私と会おうと思った時から1~2週間経って、つまり1~2週間前の情報を基に議論をしていたわけです。
ところが今は、テレビ電話なりいろいろなもので顔をつなぐことによって、資料なしでその時の悩み、その時の困りごとを相談できるようになっています。そしてそのことによって会議資料を半減でき、その作成のための時間も減らせますから、今はぜひとも、そのリソースを未来への投資、新しいトヨタのために使ってもらいたいと思っています。
また同時に、私自身は愛知県の研修センターにいながら、海外の地域CEOや海外の会社の人たち、あるいは他社のトップの方々と頻繁に連絡を取り合うようになりました。
他社のトップと話をする時は、今までは私自身が出向いてご挨拶し状況を説明しないと失礼にあたるのではないかと考え、できる限り相手様へ伺うようにしてきました。そうなると、お会いするのは早くても1カ月後ということになっていました。
しかし、そうしたトップの方でも1日の中に5分や10分のスペアタイムはあるものです。その5分、10分の隙間時間を使って、話したい時に話したいトップの方と話したい内容だけを話す、ということもできるようになったと感じています。
これらのことを踏まえると、新型コロナを機に、(事業・業務の中で)一気に止めること、一気にやり方を変えること、新しいトヨタに向けてアクセルを踏むものが出てくるでしょう。新型コロナというのは、止めること、やり方を変えること、新しいトヨタに向けてアクセルを踏むもの、の実現を速めるものだろうと考えています。
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トヨタの2020年3月期決算(2019年4月~2020年3月)は、売上高が対前年比2956億円減の29兆9299億円、営業利益は同246億円減の2兆4428億円と、2020年1月~3月の世界的な需要低迷を受けて減収減益に転じました。そして2021年3月期の見通しはさらに厳しく、売上高は5兆9299億円減(20%減)の24兆円、営業利益は1兆9428億円減(約80%減)の5000億円としています。豊田社長の発言はそうした厳しい経営環境を見越した上での見解で、その意味でも重く、かつスピーディな変化、変革を予想させるものだと思います。
上記の豊田社長の経験は、まさしくテレワーク/リモートワークそのものですが、これまでのコラムで見てきたように、非対面・非接触・ソーシャルディスタンスを保持するためのテレワーク/リモートワークは、その効率性や利便性の面からも定着が進むと見られます。
トヨタ自動車 2020年3月期決算説明会へのアクセスはこちら。豊田社長のビデオもあります。
リモートコラボレーションのメリットについて ~IDC調査
次のデータは、IDCが北米のユーザーを対象にしたリモートコラボレーションのメリットについての調査結果(N=253)です。豊田社長の発言を、テレワーク/リモートワークのよさの観点でパラフレーズしていくと、下記のような項目が当てはまると思えます。
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コラボレーションツールを使うメリットは何ですか?(最大5つまで回答可能)
リアルタイムの情報 46%
個人の生産性向上 41%
時間の節減 40%
チームの生産性向上 40%
より多くのつながり・情報連携の感覚 36%
よりよい関係性の構築 36%
マーケットする/プロジェクト実行までの時間の短縮 35%
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IDC Webセミナーのトップページはこちら(英語)
単なる人の作業の代替ではない
ここで、前回のコラムの続きに戻りましょう。
日本総研の指摘は「新型コロナの流行とそれに対処するための外出制限措置は、「非対面」と「無人化」のニーズを惹起した」というもので、それは、「①個人の行動がオフラインからオンラインへシフト、②人間が行っていた作業を機械やロボットが代替」という動きを加速させる形で「顕在化している」というものでした(「新型コロナ禍が促す企業のデジタルトランスフォーメーション」)。
2つ目の「人間が行っていた作業を機械やロボットが代替」は、機械化やシステム化の歩みそのものと言えます。しかし、現在の新型コロナが強いている状況は、単に人の作業の代替になるロボット化やシステム化を考えればよいのではなく、ロボットやシステムを使って人がどこで作業するかという場や環境についての考慮、さらにロボットやシステムをどのように運用するのかという体制への考慮も不可欠です。
現に、これまで会社でロボットやシステムを使って行っていた作業が、在宅勤務となったためにロボットやシステムを使えず業務を行えなくなったとか、従業員同士の接触を避けるために出社人数を減らした結果、ロボットやシステムを監視・運用する担当者に過大な負荷がかかっている、あるいは不在の危機に直面している、ということが起きているのです。
システム開発時に重視する項目 ~JUAS調査
では、人間が行っていた作業を代替するシステムは、何を重視して開発していけばよいのでしょうか(このコラムでは、機械やロボット(ハードウェア型)ではなく、システムに話を絞ります)。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は、5月11日公開の「企業IT動向調査報告書2020」で、システム開発時に「品質」「コスト」「開発スピード」「変更容易性」「継承性」の何を重視するかについて、基幹系、業務支援・情報系、Web・フロント系、管理業務系に分けて調査結果をまとめています。
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システム構築時の重視事項の1位または2位に「品質」を選んだ企業の割合は、どの業務システム分野においても最も多く、次いで「コスト」の順となっている。
以降は、分野ごとに異なり、「基幹系」「管理業務系」では「継承性」「変更容易性」「開発スピード」の順、一方で「業務支援・情報系」「Web・フロント系」では「開発スピード」「変更容易性」「継承性」の順とこの3項目に関しては並びが業務システム分野により逆転している。
また、「Web・フロント系」では「品質」「コスト」「開発スピード」の1位と2位の合計が近似値を示しており、企業が最も「開発スピード」を重視している領域であることが分かる。
(中略)
過去の企業IT動向調査における同様の質問において「開発スピード」が単独1位となる分野・グループが登場したのは今回の調査が初めてである。その2分野・グループは金融と社会インフラの「Web・フロント系」である。金融、社会インフラは競争優位性を確保するうえで重視する業務システムの調査においても「Web・フロント系」の比率が10%以上と他業種グループに比べて高かった。競合の参入などビジネス環境の変化が激しい業種グループのシステムほど開発スピードがより重要視されていると推察される。
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このコラムでは、システムの適用先によって開発時に重視される項目の順位に違いがあるものの、「品質」「コスト」「開発スピード」「変更容易性」「継承性」に留意すべきことを確認できればよいと思います。
日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2020」へのアクセスはこちら。
次回は、オフラインからオンラインへのシフト、そして人間の作業を代替するシステムがクロスするところの自動化について考えてみます。(2020.5.14)
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◎シリーズ|新型コロナとRPA◎CONTETS
シリーズ|新型コロナとRPA(1)~RPAはどのような認識の下に活用すべき?
シリーズ|新型コロナとRPA(2)~RPAをめぐる経済環境の激変
シリーズ|新型コロナとRPA(3)~ソーシャルディスタンスについて考える
シリーズ|新型コロナとRPA(4)~デジタル技術の活用についてマッキンゼーの洞察、ほか
シリーズ|新型コロナとRPA(5)~NTTデータ経営研究所のテレワーク/リモートワーク利用実態調査、など
シリーズ|新型コロナとRPA(6)~トヨタ自動車・豊田章男社長の体験、人間の作業を代替する動きの加速